デビッドヘルフゴット「Shine your life 2007」

昨日はデビッドヘルフゴットのコンサート 「Shine your life 2007」を聴きにいってきました。

 デビッドヘルフゴットは超絶のピアノプレイで有名なピアニストで、日本に来るのは5年ぶりぐらいになります。今回は日本で7箇所コンサートを予定しています。「Shine」という映画は、彼のピアニストとして成功するまでの苦悩の日々を描いた作品で、見たことがある人も多いのではないでしょうか。前回来日したときにも行くつもりでいたのですが、どうしても都合をあわせることができなかったので、今回は台風が来ていても絶対行くつもりでいました。

 会場は三軒茶屋の昭和女子大学人見記念講堂。題名のない音楽会の会場として有名で、毎週のようにコンサートや演奏会を開催していて、その音響のすばらしさやアメニティの充実ぶりはもはやそのあたりの市民ホールをも圧倒するスペックで、とても大学内の講堂とは思えないところです。

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今回の会場の人見記念講堂です。この学校、ものすごく学費が高そうだなぁ・・・。

 

 今回の演奏会でデビッドヘルフゴットが演奏する曲はラフマニノフのピアノコンチェルト3番。またしても3番かい? とか言われそうですが、同じ曲でもこの人のラフマニノフは絶対一度生で聞いてみたかったのです。今回は神奈川フィルの演奏会を兼ねているようで、プログラムは1部と2部に分かれていて、1部は神奈川フィルのみの演奏でした。

 

(今回のプログラム)

 第1部 チャイコフスキー 幻想序曲「ロミオアンドジュリエット」(神奈川フィル 指揮:竹本泰蔵

 第2部 ラフマニノフ ピアノコンチェルト3番 ピアノ:デビッドヘルフゴット 管弦楽:神奈川フィル 指揮:竹本泰蔵

 

 第1部はロミオアンドジュリエット。指揮者の竹本さんはすごく若い指揮者で、指揮もすごく元気があります。コンマスは髪の毛の長い女性です。ロミオアンドジュリエットは私は生で聞くのは初めてで(というか、あまりじっくり聞いたこともない。CDでおまけに収録されているような曲。)、それほど長い曲ではありません。集中力が持続する程度の時間の曲なので、ロミオアンドジュリエットのストーリーを曲の進行に当てはめて、今どのあたりかな? と考えながら聞くと面白い曲なのだと思います。とはいったものの、この曲は私は勉強不足でほとんど聞いたことがない曲だったので、いまいちどのあたりがロミオアンドジュリエットなのかわかりませんでした。曲目が事前にわかっていれば、予習ぐらいしてきたのですが。やっぱりロミオアンドジュリエットは曲にあわせてロミオとジュリエットを演じる人が出てこないといまいち良くわからないです。

 程なく休憩時間に入ります。改めてこのホールの中を眺めて見ます。昔すんでいた鈴鹿市の市民会館はこんな感じの雰囲気だったかな? 禁煙のサインとデジタル表示の時計がちょっと似ていて、懐かしい感じです。鈴鹿市民会館・・・。幼稚園の音楽会を毎年あそこでやったな・・・。あの幼稚園はやることが結構大きくて、親は大変だっただろうな・・・。音響はやっぱりこちらのほうがすぐれているようで、ちょっとした音でも良く響きます。

 15分の休憩の後、第2部が始まります。第2部がお目当ての人がやっぱり多いようで、この時間から入ってくるお客さんもいるようです。ピアノが真ん中に運ばれてきて、オケが音あわせを行います。そのあと、指揮者に手を引かれて、変なおじさんが・・・。その姿はまるで日光猿軍団のさるのようで明らかに挙動不審です。オケの人に片っ端から抱きついています。怒涛のような拍手をしていた観客からも、思わず笑いがこぼれます。ちょっと変な人だと聞いていたけど、映画も見たけど、このおじさんこそが、かの有名なデビッドヘルフゴットのようです。う~む・・・。

 程なく彼はピアノの前に座りますが、相変わらず挙動不審です。コンマスの女性に何か合図?のようなことをしたり、指揮者が始めないと、いつまでもこうしていそうだ。そういえば、スコアも置いてないぞ? まさかラフマニノフのピアノコンチェルト3番をすべて暗譜で弾くっていうのか? ピアノコンチェルト3番の出だしはオケのなだらかなメロディーで始まります。う、始まった。おじさん、本当にきちんと弾くのか? お、とりあえず弾き始めた。でも、早っ!! オケと合ってない! おじさん暴走気味!? お、オケが合わせたみたい。とりあえずは何とか始まったな。(は~。)

 しかし、一度スイッチの入ったおじさんの物凄さを私はすぐに理解するにいたりました。この間みなとみらいホールで聞いたときにオケに負けて聞こえてこなかった旋律が低音から高音にいたるまで鮮明に聞こえてきます。しかも物凄い超絶技法を要求されるラフマニノフ3番にもかかわらず、彼は余裕があって、まだまだぜんぜんいけるよ、といわんばかりに楽しそうに演奏しているのです。「音が踊っている。」 そんな感じのピアノの旋律は、いつのまにか最初に感じていた不安感を完全に拭い去って、ホールの中をすごく心地のよい空間に変えてしまっていたのです。おじさんはオケが演奏するインターバルのところでは、しっかりとオケの演奏を聴き、指揮者を見て、観客の反応をも楽しんでいるかのようでした。そして、自分の見せ所を演奏し終わったときは、満面の笑みと共に両手で親指を上げて、「どうだ!!」といわんばかりに観客にアピールするのです。そこにあるのはまさに観客と彼との一体感そのものでした。

 演奏が終わった後の観客の拍手はまさにこの世の最高の演奏を今まさに行った、デビッドヘルフゴットに贈られる最高の拍手だったことは言うまでもありません。彼は親指を立てて、今の自分の演奏に対する最高の喜びを表現し、そして、またオケのメンバーに抱きつき、花束を贈ってくれた観客にも抱きついて喜びを表現していました。間違いなく今回の演奏は、私が今までに聴いたコンサートの中でも最高のものだったと確信を持っていえるし、多くの観客にとってもそうだったにちがいないと思います。そして、今まででもっとも楽しく、面白かったと思えるコンサートであることも間違いないと思います。思い出すと、超絶のプレイに思わず心ときめき、おじさんの姿に思わず笑顔になってしまう、彼のコンサートはそんなコンサートなのです。彼はピアノを通じて人を幸せにできる希有なピアニストなのだと思います。

 また来日したら、絶対いかなくちゃ。

 

 アンコールはなんと3曲。

 1.ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲

 2.シューベルト:即効曲

 3.コルサコフ:熊蜂の飛行

 どの曲もいわゆる超絶技法の曲でした。強烈です。アンコールに応えるとき、「さあ、弾くよ。」という感じのアクションがまた楽しそうなんですね。彼は本当にピアノが好きなんだなぁ・・・。